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化学・放射線療法
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臨床試験関連情報

各疾患の標準治療と臨床試験

大阪市立総合医療センター小児血液腫瘍科   原純一

標準治療と臨床試験

「標準治療」と「臨床試験」、言葉では最近よく聞くようになったと思うのですが、この「標準治療」や「臨床試験」というのはどういうものなのか、その違いはどこにあるのかというあたりを解説いたします。おそらく病気のお子様をお持ちのご家族の方は、最初に治療の提案を受けた時「この治療はどういった治療か」という説明があったかと思いますが、その際、“その治療の位置付けがどうなのか?”ということが判断する材料になるわけです。それが標準治療なのか、あるいは臨床試験なのか、あるいはそのどちらでもないのか。で、実際、小児脳腫瘍のような比較的稀な疾患の場合は、どちらでもない治療というのが結構たくさんあるというのは事実です。説明の際に、「うちではこういった治療をしている」みたいな話になるかと思います。その時に、なぜこの治療をうちでは選択してやっているのか、そういった話になってくるかと思うのですが、そういった時の、内容を理解していただく或いは判断していただく材料になればと思っております。

標準治療

臨床試験 まず言葉の意味ですが、「標準治療」というのは、今の時点で、効果、有効性、それから安全性も、いろんな点を加味して、現時点では一番いいというふうに証明されている、あるいは(必ずしも厳密な証明ではないのですが)そう考えられる、コモン・センスとして考えられている、そういう治療の方法のことを指します。で、証明というのはどういった場合に証明されるかと言いますと、下に書いてありますように、無作為割り付け試験という、これは比較試験というものですが、より従来の治療よりより優れていると証明された治療が「標準治療」ということになります。しかしながら実際、患者さんの数が少ないと、無作為割り付け試験・比較試験ができませんので、別々に行われた治療、例えば1990年から行われた治療、それから95年から5年行われた治療、そういった治療を比べてみて、その中で一番よかったものを標準治療とみなすことが、我々の領域では、実際多いです。厳密にはこういうものを区別して「みなし標準」という言葉を使うこともあります。残念ながら難治性の疾患、例えば、膠芽腫のような難治性の疾患では標準治療というものがあっても、それでも不十分な治療も多々あるということです。で、最後にもう一つ、先ほど申し上げましたように、比較試験であろうが、いろんな臨床試験というのは結果が出るまで5年以上の時間がかかってしまいます。開始から。従いまして、結果が分かった時は5年或いは10年近く前に考案された治療ということで、その時点では最新治療でないということがしばしばあるということもご記憶ください。

臨床試験

臨床試験 「臨床試験」というのは今申し上げたように、ある種の実験です。どういった実験かというと、ある一定の仮説を研究者は立てるわけですが、それを検証するための実験である、といえます。ある仮説というのはそれぞれ色々ですけれども、「化学療法を強化することで放射線量を減らすことができるか?」とか。この場合はもちろん化学療法をどのように強化して放射線をどれだけ減らすことができるのか、もっと細かい見積もりを出しますが大雑把に言うとそういうことです。で、当然ながらこの仮説は思いつきでなくてこれまでの知見に基いてつくられています。例えば髄芽腫の治療で放射線を現在標準の24Gyからいきなり12Gyまで減らすことがおそらくできると思うんですが、一足飛びにそこまでいくことはできない。それはなぜかというと今までの知見に基かないからです。そういうことで今までの知見に基いてここまでなら大丈夫だろうということで作られているはずであります。先ほどちょっと申し上げましたが、安全性を確保するということが臨床試験で最も重要な事ですけども、治療内容はデータセンター、中央のデータセンターでモニターされていると。で、これは一般臨床と一番違うところで、通常の治療というのは各施設の担当医しか分からない。ですから、その内容が第3者から評価されることがない。それに対しまして臨床試験の治療というのは常に第3者の目が入っているということがあります。何らかの問題が生じれば効果安全性評価委員会という第3者の機関で試験継続の可否が検討されるわけであります。同様に、効果についても同じことで、この効果というのはなかなか難しい部分があります。小児の場合は、最低でも3年から5年ぐらいの期間を一人の患者さんについて見ないと、効果が悪いか良いかというのが分からないわけです。しかしながら、あらかじめ100人の患者さんを対象とした場合、最初の50人の患者さんの登録があった時点で、一旦解析をするということをあらかじめ決めておきます。で、その際に有効性がこれくらいであれば中止する。あるいは毒性がこれぐらいであれば中止するということを決めておきますので、実際、効果があまり良くなければ、患者さんの不利益になりますので早期中止ということもありうるわけです。それから、あくまで研究者が一方的に考えて、独善で走ってはいけませんので、倫理性の担保ということで、学会、あるいは各病院の倫理審査委員会で審査承認を受けた上で実施されるということになります。これが臨床試験というものです。

臨床試験参加にあたってのチェックポイント

臨床試験 ここで、臨床試験参加を求められた時のチェックポイントをお話します。そう簡単ではないのですが、試験計画書というのは、患者さん達が希望されれば見ることができます。本来、計画書というのは、一般の方も読んで理解できるように書いてなければならないのですけども、予想される効果が根拠に基いているか。それから、結果が有意義なものか、やってみたけどみたいな、というのでは具合悪いわけですね。せっかく参加する以上はそれが自分のお子さんのためだけじゃなくて、その次からの患者さんのためにもなるような、結果が得られるというものが、でないとだめなわけです。それからあと第3者監視が行われているか。倫理委員会で審査されているか。どんな施設が参加施設か、どういった人が責任者か。何か疑問があれば臨床試験の責任者に直接問い合わせることは可能です。

例えば珍しい病気の腫瘍というのは、全国的にやると常に毎月なんらかの患者さんの情報が入ってきます。そういった情報をみんなで共有することで、一施設で得られないいろいろな有意義な情報が得られることができて治療の質が向上するということがあります。

小児脳腫瘍治療の問題点

臨床試験 小児脳腫瘍治療の問題点ということなんですが、化学療法の良し悪し、あるいは、上手い下手っていうのは、第三者が比較的簡単に検証ができます。放射線も、ずいぶんいろいろトラブルがあったのを皆さんご存知でしょう。例えば、計画した線量の数倍の線量が当たっていたとか・・そういうとんでもない事件があったりしましたが、それがゆえに現在、非常に治療精度は上がっていると思います。だけど専門医が少ないんですねぇ。特に小児の臨床経験が豊富な治療医は希少であると。それから、このあと外科手術の話がありますが、他の分野以上に個人の技量(技量というのは考え方も含まれると思うんですが)、それに左右される部分があると。外科以外の立場から申し上げると、手術法の標準化とそれから、手術内容の検証が、今後、脳外科の世界で必要になるのではないかなと思っております。