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分子標的薬について

大阪市立総合医療センター小児血液腫瘍科   岡田恵子

分子標的薬とは?

分子標的薬とは

分子標的薬という名前は聞いたことあるかもしれませんが、そもそもの定義はなんでしょうか?分子といいますものは、がん細胞が増えていく時に必要な分子や、蛋白質などを差し示します。あるいは、そのがん細胞の表面に出ている蛋白質を指す場合もあります。これらを狙ったものが分子標的薬ということができると思います。

分子標的薬の効果

古典的な抗がん剤は、それぞれ機序が少しずつ違うのですが、細胞の増殖システムを抑えることでその効果を発揮します。がん細胞は、細胞増殖がさかんなことが特徴だからです。しかし、髪の毛だとか、骨髄の造血だとか、口の粘膜、腸の粘膜などの正常な細胞でも、細胞増殖がさかんであれば抗がん剤の影響、つまり副作用が出てしまいます。分子標的薬は、狙う分子ががん細胞に特異的であることが望ましくて、そうであればあるほど、正常な細胞には影響を与えない、副作用の少ない良い薬であるということになります。

治療効果のほうに話が移りますと、分子標的薬が一躍注目をあびたのが慢性骨髄性白血病に対するグリベックの効果というものでした。化学療法だけでしたら30〜40%だったのが、グリベックを使うことで80%の人が治るようになってきたと報告されています。このお薬一つができただけで、治療成績がぐっと変わってしまったわけです。

分子標的薬の開発と臨床応用

分子標的薬の開発

しかし、多くの分子標的薬は現在、臨床応用のレベルにまで至っていません。最初ネズミなどで実験をして、多くの時間、資金、研究体制、社会的協力の上、臨床応用へと辿り着くのです。アメリカでは、研究費用は製薬会社からも出るし、米国政府からも病院側に下りるようになっています。さらに、臨床試験に関しても非常に協力的な社会体制を持っています。しかもアメリカではがん研究費の半分は小児がんにいくようになっているのです。

ただ、日本ではアメリカでこうやってどんどん承認されている新薬はすぐには使えません。それはなぜかというと、こういう新薬の開発に対する国のサポートがない上、日本は小児がん治療薬の臨床試験は皆無に近いからです。

日本における分子標的薬

日本の分子標的薬

ではこういった状況で今言ったような新規抗がん剤を使うにはどうしたらいいのでしょうか?

一番安全なのは臨床試験に参加することですが、国内で小児を対象にした臨床試験は、数えるほどしかありません。結局日本では国家が臨床試験を放置しているのが問題であろうと思います。規制もないのですが援助もありません。第二の選択肢として、適応外使用するか、あるいは、日本で発売されていない場合は個人輸入して使う手があります。しかし、副作用が起こっても監視する機構がありませんので、あまり真っ当な方法でないとは思います。

分子標的薬というのは今後目覚ましい進歩を遂げる可能性があるお薬であります。ただ、耐性の出現など克服すべき問題は多く残っています。また、分子標的薬の話をするのに避けて通れない問題は、日本の小児がん医療を取り巻く諸問題だと思いますので、まず患者さん側から正しい情報を得て、賢い患者さんになっていただきたいと思います。我々がいくら声を大きくしてもなかなか国には声は届きません。ですので、患者さんが声を大きくしていただくことが大事なのではないかと思います。

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