脳腫瘍とは
兵庫県立こども病院脳神経外科・部長 長嶋 達也
はじめに 〜脳腫瘍とは脳腫瘍という病気は、様々な種類の腫瘍の集まりであり、その種類によって治療法や予後が 異なることから、理解の難しい腫瘍といえます。脳という精緻な臓器に発生するために、発生場 所のわずかな違いにより全く異なった症状を呈することも理解を一層困難にしています。脳腫瘍 についての全般的な知識を述べるとともに、今回のシンポジウムがどのように構成されているか の全体像を示し、「こどもの脳腫瘍」に関する理解を深めていただきます。 脳腫瘍の頻度と治療上の特徴白血病による小児死亡が1970年代半ばから急速に減少しているのに比べて、脳腫瘍による 死亡は1980年代からほとんど変化していません。CTスキャンやMRIにより脳腫瘍の診断精度が 向上して、診断される数が増えたということも一つの要素ではあります。個々の腫瘍では治療成 績が向上しているものが確かにあるにもかかわらず、脳腫瘍全体としてみれば小児死亡原因の 構造を変えるほどの十分な治療効果が得られていないのが現実です。小児死亡の原因となる腫 瘍は、後にも述べますように、悪性脳腫瘍に分類される一群の腫瘍であり、今回のシンポジウム はこのような腫瘍に対する治療が主たるテーマになっています。 脳腫瘍の治療が、白血病のような血液腫瘍に比べて困難であるのはなぜでしょうか? 理由はいくつか考えられます。
発達期の脳の特徴脳腫瘍の治療を理解する上で、発達期の脳の特徴を理解することが重要です。こどもの脳は 急速に発達しています。特に3才までの発達が著しいことは、頭の大きさを示す頭囲曲線の推移 を見れば一目瞭然です(図1)。この間に、神経細胞は軸索を伸ばしたり、他の神経細胞との間に シナプスを形成したりして大きくなります。また、神経細胞から出る電線に相当する軸索の周囲を、 ミエリンという物質が何重にも取り囲む、髄鞘化という過程が進行します。このような時期に放射 線照射が行われると、将来様々な脳障害を生じる可能性が高くなることが知られています。 一方、可塑性(脳障害からの回復力)が大きいという利点もあり、しばしば驚異的な神経機能の 回復・発達を示します。 | |
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