脳腫瘍とは
兵庫県立こども病院脳神経外科・部長   長嶋 達也

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小児悪性脳腫瘍に対する集学的医療 〜まとめ

 脳神経外科医、小児科の腫瘍専門医、放射線科医の組み合わせですが、この3つの専門家に 病理医を加えたチームが、集学的治療の主体になります。それに加えて、小児がん専門の看護師、 放射線技師、理学療法士などのコメディカルスタッフも重要な役割を担います(図19)。

脳腫瘍の図
これらの治療を専門病棟で行うことによりはじめて十分な治療が可能になります。ホルモン 補充療法には小児内分泌専門医、難治性てんかんの治療には小児神経内科医、化学療法 に用いる中心静脈へのカテーテル留置には小児外科医などの協力を欠くことが出来ません。 こどもの脳腫瘍に対する治療は、このような治療体制が完備した施設で行われるべきです。

 残念ながら悪性脳腫瘍の患児を全て救うことが出来ないのが現状です。 不幸にして治療がうまくいかなかった場合には、緩和治療、ターミナルケアーが十分に行える 体制も必要です。また、新たな治療法を開発するためには、多くの施設からなる共同研究グル ープにより、絶え間ない研究を行っていかなければなりません。

まとめ、参考文献、図の説明

  1. 脳腫瘍は様々であり、手術のみで治る腫瘍と集学的治療を要する腫瘍があります。
  2. 小児悪性脳腫瘍の治療には、様々な専門家チームからなる集学的治療が不可欠です。
  3. 現在の治療法では治らない腫瘍に対しては、新しい治療法の開発が必要であり、そのためには治験(治療研究)が重要になります。


参考文献:
  • 西 基:我が国における悪性新生物による小児死亡の変化、小児がん、2000
  • 松谷雅生:脳腫瘍第2版、篠原出版新社、1996
  • Netter:医学図譜集 III神経編、日本チバガイギー、1989
  • Keating 編:Pediatric Brian Tumors, Thieme, 2001

図の説明:
図1: こどもの脳の発達。3才までに急速な発達を遂げるため、この時期での放射線照射は高率に脳障害を来す。
図2: 小児脳腫瘍の種類と発生頻度。グリオーマ、髄芽腫、胚細胞腫瘍の頻度が高い。
図3: 脳腫瘍の分類。世界保健機構(WHO)の分類から大分類の部分を抜粋して示している。それぞれの腫瘍の中に細分類が存在するために、脳腫瘍の種類は大変多くなる。詳しくはhttp://neurosurgery.mgh.harvard.edu/newwhobt.htmに新しい分類についての情報がある。
図4: 脳腫瘍と頭蓋内圧亢進の関係。脳は頭蓋骨に囲まれた閉鎖された空間に存在するために、 脳腫瘍が発生して徐々に大きくなると頭蓋内の圧が上昇する。図の左のように徐々に大きくなる 腫瘍では、頭蓋が広がることにより頭蓋内圧が緩衝されて、巨大なサイズに達して始めて頭蓋内 圧亢進症状を呈することも小児では稀ではない。
図5: 脳における機能局在と局所脳神経症状。
図6: 内分泌症状。
図7: 脳腫瘍と水頭症。左:小脳正中部に白く造影される円型の腫瘍が存在し、髄液の流れが せき止められている。右:脳室拡大が生じている(水頭症)。
図8: 脳室系と髄液循環。
図9: 画像診断。左:MRI(magnetic resonance imaging, 磁気共鳴画像診断法)は腫瘍の存在部位、 性質を正確に知ることが出来る。右:脳血管撮影では腫瘍の栄養血管が描出されており、手術法を 考える上で重要な情報となる。
図10: 病理診断。H-E染色。髄芽腫と星細胞腫とでは細胞密度、形態の違いから診断がつけられる。
図11: 定位的脳手術による腫瘍生検。
図12: 2才、男児、脈絡叢乳頭腫の例。左:術前MRIで側脳室内に巨大な脳腫瘍が存在する。 右:全摘出術後MRIで残存腫瘍はなく、完治。左側頭葉から進入しているが神経症状は残していない。
図13: 14才、女児、頭蓋咽頭腫の例。左;視床下部?下垂体部に大きな腫瘍が存在する。 右:手術で大部分を摘出したが、視床下部に癒着する一部は危険なため残さざるを得なかった。 放射線照射を追加して再発を認めず正常の学生生活を送っている。
図14: 神経膠腫(グリオーマ)。正常組織との境界がないために外科的治療が出来ない。 Netterの図譜より引用。
図15: 11才、女児。脳深部に存在する正常脳組織との境界がない神経膠腫のMRI。 T1強調画像では一見境界を有するように見えるが、T2強調画像では境界がないことが判明。
図16: 髄芽腫の脊髄播種性転移。左:小脳正中部に円型の髄芽腫が存在する。 右:脊髄MRI にて髄液に乗って転移した脊髄転移巣を認める。
図17: 化学療法に感受性が高い胚腫の例:左:術前MRで大きな神経下垂体部腫瘍を認める。 右:部分摘出を行った後、化学療法を行うことにより速やかに腫瘍は消失した。
図18: 小児脳腫瘍の集学的治療チーム
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