小児脳腫瘍における化学療法の基礎知識
兵庫県立こども病院血液腫瘍科   小阪 嘉之

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化学療法剤の副作用

化学療法剤は他の薬剤に比べて、有効血中濃度の幅が少なく、また基本的にはがん細胞の増殖を止め、死滅させる薬剤であるため、正常細胞にもその機序がおよぶこともあり、極めて副作用の強い薬剤である。言い換えると、化学療法剤の副作用はほぼ必発で、かつ重篤であると言える。では、ど ういった副作用があるかを、表8に示す。これらのなかでも、骨髄抑制、消化器症状(悪心、嘔吐)、脱毛は程度の差はあるが、ほとんどすべての化学療法剤でみられる副作用である。個々の副作用について説明すると、骨髄障害(抑制)については、表9にまとめる。

致命的になりうる重篤な合併症であり、十分な対策が必要である。また悪心、嘔吐も患者にとっては、非常につらい副作用である。しかも 、脳腫瘍には最も良く使用される白金製剤、なかでもシスプラチンの消化器症状は強く、十分な対策が必要である。最近では、セロトニン受容体拮抗薬が表10に示すように、たくさんの種類があり、これらを積極的に使用すべきである。

また白金製剤(シスプラチンとカルボプラチン)の腎障害(尿が出にくくなり、重篤な場合は腎不全状態となることもある。)も大事な副作用であり、これらには表11のように対処する。

脳腫瘍に良く使用される個々の薬剤の副作用を表12〜表15に示す。臨床的に問題となることが多いのは、シクロフォスファミドとイフォスファミドの出血性膀胱炎、ビンクリスチンの麻痺性イレウス(お腹の動きが悪くなり、便が出なくなり、そのために腹痛をおこす。)、先述の、シスプラチン、カルボプラチンの腎障害、また白金製剤にはそれ以外にも、聴力障害(耳鳴りがしたり、耳が聞こえにくくなる。)が重要 で、これらの薬剤を使用している時には、定期的な聴力検査が必要である。さらに、エトポシドでは、多く使用すると、2次がんとして、白血病が発症する危険があり、注意が必要である。

表8.抗がん剤の副作用
1)骨髄障害
2)胃腸障害
3)肺毒性
4)心毒性
5)肝毒性
6)腎毒性
7)神経毒性
8)粘膜・皮膚毒性
9)その他

表9.骨髄障害
致命的になり得る重篤な副作用である。
対策

最近の脳腫瘍の化学療法は強力であるため、白血病などの血液疾患の化学療法時に準じた対策が必要である。

1)各種抗菌剤の的確な投与(予防も含めて)

2)G-CSF製剤(グラン、ノイトロジン、ノイアップ) の使用

3)輸血

4)クリーンカーテンの使用


表10.抗がん剤の悪心・嘔吐の対策
1)セロトニン*受容体拮抗薬:
副作用も少なく鎮吐作用も強力
    塩酸グラニセトロン/カイトリル
    塩酸オンダンセトロン/ゾフラン
    塩酸アゼセトロン/セロトーン
    塩酸ラモセトロン/ナゼア
2)メトクロプラミド/プリンペラン:
 副作用:垂体外路症状
3)ステロイド

表11.腎毒性の対策

1)輸液 2000〜3000ml/?/日(前日から)

2)利尿(尿量を2〜3ml/kg/時間) 場合によっては利尿剤使用

3)尿のアルカリ化
  炭酸水素ナトリウム(メイロン)
  アセタゾラミド(ダイアモックス)
         メトトレキサート大量投与時は必ず

4)アルキル化剤の出血性膀胱炎に対しては
   メスナ(ウロミテキサン)の予防投与

5)シスプラチン投与時はClを多く含む輸液


表12.シクロフォスファミド/エンドキサン
 悪心・嘔吐、食思不振
 骨髄抑制
 出血性膀胱炎
 脱毛
 性腺機能障害、不妊、無月経
 心筋障害、心不全 
 2次がん

表13.ビンクリスチン/オンコビン
 ビンデシン/フィルデシン
 ビンブラスチン/エクザール
 悪心・嘔吐、食思不振
 便秘、
 麻痺性イレウス
 顎部痛、骨痛
 電解質の異常
 神経毒性   知覚異常、腱反射消失 、振戦
 血管外漏出による皮膚壊死

表14.シスプラチン/ランダ・ブリプラチン
 カルボプラチン/パラプラチン
 悪心・嘔吐、食思不振
 急性腎不全、腎障害
 骨髄抑制
 聴力低下、難聴、耳鳴
 脱毛

表15.エトポシド/ラステット・ベプシド
 悪心・嘔吐、食思不振、下痢
 低血圧  急速注入中
 アレルギー反応
 骨髄抑制
 脱毛
 口内炎、粘膜炎
 2次がん
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