上衣腫
大阪市立総合医療センター  北野 昌平

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大脳半球と第4脳室での上衣腫が異なる点

 上衣腫は約4割が大脳半球に、6割が第4脳室にできるといわれます。大脳半球にできる場合と第4脳室にできる場合とでは随分と出現する症状や治療の経過が異なることがあります。大脳半球の場合、症状には頭痛や嘔吐、てんかん発作などのほか、大脳半球に特有の脳機能の障害が起こります。例えば手足の不自由(麻痺)、皮膚の感覚の異常(知覚障害)、言葉が不自由になる(失語症)、見える範囲が狭くなる(視野欠損)、字を書けなくなる、計算が下手になるなどです。大脳半球の腫瘍では脳の場所により機能が分散していますので、機能障害が同時に複数起こることは少ないと言えるでしょう。しかし、第4脳室の底部は脳幹と呼ばれ、呼吸する、食べ物を飲み込む、など生命を維持する働きが集中している場所です。脳幹の障害は複数の症状が同時に起こります。顔がゆがみ、よだれがでて、まぶたが閉じない、表情が乏しくなるなど(顔面神経麻痺)、眼球が内側に寄り目になる(眼球運動障害)、食べ物を飲み込めなくなる(えんげ障害)、声がかすれる(さ声)、咳が出せず痰が切れないなどです。物が飲み込めなくなると、食べ物が間違って気管に入り、気管支炎や肺炎の原因になります。咳ができず、痰が切れないと窒息など、生命に関わるような重症の症状が起こるのです。第4脳室に発生する上衣腫の60%は第4脳室の底部から、30%は外側の壁から、10%が天井から発生します。第4脳室底部に発生した場合には、摘出操作によって脳幹にある神経の働きが障害され、顔面神経麻痺や眼球運動障害、呼吸やえんげ障害が出現する可能性があり、手術で全摘出が困難な理由のひとつです。
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