上衣腫
大阪市立総合医療センター  北野 昌平

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上衣腫の手術について

 上衣腫の手術の最高の目標は、腫瘍をすべて完全に摘出することです。では部分的に摘出した場合は手術が不成功に終わったといえるのでしょうか。必ずしも、そうではないと思います。脳幹部に浸潤するような第4脳室の上衣腫の場合には、全部を摘出することを手術の目標にすると、脳幹部を損傷して、術後に食事がとれず、気管切開をして人工呼吸が必要な状態を招くかもしれません。腫瘍は完全に摘出したが意識がもどらないという悲惨な結果になるかもしれないのです。このような手術摘出が困難な第4脳室底部の手術では他の治療に連携できるよう、神経症状を最小限にして、腫瘍を可能なかぎり摘出するような手術計画を立てざるを得ません。そのような場合には部分的に腫瘍が残存していても不成功とは言えないと思います。

手術だけで上衣腫が治療できるでしょうか

 大脳半球に上衣腫が発生し重要な脳機能が影響を受けない場所にある場合、もしくは小脳虫部から発生し第4脳室の底部に浸潤していない場合には、術中に肉眼的に完全に腫瘍を摘出する手術が可能です。このようなごく限られた場合は手術だけでもかなりの長期間、再発なく経過する可能性があります。ところが、通常の第4脳室の上衣腫では手術で完全に摘出できたと思われても、しばしば同じところに再発しますし、再発時には髄液播種(はしゅ)という髄液の流れにそって脊髄や大脳半球に多数の転移を起こすことがあります。そうなると手術ではとても全部摘出できません。つまり、上衣腫は手術単独では治せないことが多いのです。手術による治療と他の化学治療や放射線治療を組み合わせるのが上衣腫の有効な治療方法です。

髄液播種とは何でしょう

 髄液の流れによって腫瘍細胞がもとの腫瘍の場所から離れたところの脳や脊髄の表面に付着し、そこで血流の供給を受けて大きくなり、新たな転移巣を形成することを言います。脳の転移では大脳の複数の部分に腫瘍が出現します。脊髄に播種する場合には脊髄を圧迫します。下肢の麻痺や知覚障害、腰や背中の痛み、膀胱機能の障害による尿が出せない(尿閉)や尿が漏れる(尿失禁)などの症状を起こします。その場合には、脊髄の機能を保つために転移した腫瘍を摘出し、脊髄の圧迫をとる手術を行うことがあります。
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