髄芽腫とPNET
大阪市立総合医療センター小児血液腫瘍科部長   原 純一

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髄芽腫、PNET治療方法の種類とその特徴

治療手段として、手術、放射線治療、化学療法があるが、それぞれメリットとデメリットがあり、それらを勘案して治療方針を決定する必要がある。

手術は、病理診断用の標本を採取するためにも欠くことのできないものだが、転移、特に見えない大きさのものについては無力である。放射線治療は最も強力な治療手段で、照射された部位に限っては極めて有効である。しかし、後遺症を残しやすいという欠点がある。

一方、化学療法は転移した腫瘍細胞に効果があるが、放射線に比べると一定の限界がある。脳は血液・脳関門と呼ばれるバリアーに守られているので、血液中の抗がん剤が腫瘍に届きにくく、そのために充分な効果を得るためには脳以外に発生した腫瘍よりも大量の抗がん剤を必要とし、その分副作用も出やすくなる。しかし、全身に存在している転移に対しても同時に効果を発揮するというメリットがある。

従って、治癒率の向上を図りながら、しかも後遺症を最小限に抑えるためには、それぞれの治療手段を、特に放射線治療と化学療法を、最適な強度でうまく組み合わせることが必要であり、現在はその方法が模索されている。以下に、それぞれの治療法の特徴について述べる。

1)放射線治療

 「小児脳腫瘍の放射線療法」で述べられているが、大脳に広範囲に照射されると精神発達、IQなどに障害が出ることがあり、照射された年齢が低いほどこのような後遺症はより強くでる。特に神経細胞が完成する3歳までであれば大きな障害が後遺症として残る可能性が高い。また、7歳未満では24Gyでも照射後徐々にIQが低下することが知られている(図3)。また、脊髄に照射すると脊柱の椎骨も同時に照射され、その結果骨が伸びにくくなり座高が低くなる。また、女児では脊髄の最下部に照射する際に卵巣が照射野に含まれることがあり、その場合は不妊となる。

放射線療法による障害

腫瘍の存在した部位に行う局所照射は50Gy前後の多い線量を照射する必要があるが、その場合の晩期障害として後年、血管障害などが生じることがある。また、小脳に発生する髄芽腫では後頭部に局所照射を行うが、その際、聴力障害を避けるために内耳への線量を照射方向を工夫して極力下げるよう試みることが必要である。

 結局、大脳が解剖学的に完成する3歳までに放射線を照射すると後遺症が強く出ること、その後も思春期頃まで脳は機能的に発達を続けるので、低年齢ではできる限り放射線を照射しない、または照射する線量を減らすことが望ましい。しかし、そのためには、放射線を補うものとして化学療法を強化することが必要となる。

2)化学療法

髄芽腫の治療には化学療法は必須であるが、「小児脳腫瘍における化学療法の基礎知識」で詳しく述べられているように副作用は避けれないものである。たとえばエトポシドは使用方法によっては1〜2年後に白血病を誘発することが知られている。しかし、髄芽腫の治療で用いられる抗がん剤のうちシスプラチンによる高音域の難聴以外に、化学療法では放射線治療でみられるような重大な後遺症はまれである。現在、髄芽腫/PNETに対する有効性が確認されている抗がん剤として、シスプラチン、カルボプラチン、ビンクリスチン、エトポシド、サクロフォスファミド、ニトロソウレア系抗がん剤がある。抗がん剤が有効であった一例を図4に示す。一方、化学療法を強化するひとつの手段として、次項で述べるように抗がん剤を大量に使う大量化学療法(自家造血幹細胞移植併用)という方法がある。

松果体
3)自家造血幹細胞救援併用大量化学療法(図5)

抗がん剤は投与量が多いほど効果も強くなるが、特にアルキル化剤と呼ばれる抗がん剤は、効果は投与量の対数比で増強し、たとえば投与量が2倍になると抗腫瘍効果は10倍になる。より強い効果を得るために、できるだけ大量の抗がん剤を投与するのが自家造血幹細胞移植併用大量化学療法である。抗がん剤を大量に使うと、その副作用で骨髄機能が完全に破壊されてしまうので、あらかじめ、本人の造血幹細胞を成分献血と同様の方法で体の外に取り出し、凍結保存しておく。

そして、大量の抗がん剤を使って腫瘍を叩いた後に、幹細胞をフリーザーから取り出してきて本人の体に戻す。これを自家造血幹細胞移植と呼ぶ。脊髄への転移のある患者や低年齢で放射線照射を使用できないときに化学療法の効果を補うために使用されることが多い。脳腫瘍に対する大量化学療法はまだ確立したとは言えないが、世界中で様々な試みがなされているが、中枢神経系への移行がよいためチオテパを用いたものが多い。日本小児脳腫瘍コンソーシアムではチオテパとメルファランを用いた大量化学療法を用いた臨床試験を実施中である。大量化学療法では後遺症として性腺障害がみられる。

自家造血幹細胞救援併用大量化学療法
4) 手術

 腫瘍が発見され次第、通常は手術が行われる。手術の目的は病理組織検査のための腫瘍組織を得ることと同時に可能なかぎり腫瘍をすべて摘出することであるが、しばしば部分摘出に終わることもある。しかし、本腫瘍は抗がん剤が有効であるので、腫瘍摘出により正常な脳の機能を損なう可能性がある場合は無理をしないで部分摘出または生検のみにとどめることが望ましい。

 腫瘍が髄液が脳室から脊髄腔へ流れ出す通路を塞いだ場合、脳室内に髄液がたまって脳室内の圧力が高まり、水頭症といわれる状態になることがある。この場合、脳室内にチューブを留置して体外または腹腔へ髄液を流すシャント留置術が行われることがある。


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