試験の概要
現在、髄芽腫(テント上PNET)は、手術、放射線療法、化学療法(抗がん剤による治療)を組み合わせて治療されています。放射線は、腫瘍のあった部分に50-55Gy(局所照射)と、脳全体と脊髄全体に24Gy(転移のない場合)ないし36Gy(転移のある場合)をあてるのが標準的です。
これらの治療法によってがんの進行を抑えることができる患者さんの割合は、転移のない髄芽腫の場合8割、転移がある場合は6割、テント上PNETの場合は3割であり、より良い治療法を模索する必要があります。また、小児では脳が未成熟であるため、24Gyを超える全脳全脊髄への放射線治療によって障害を残してしまう可能性が高いと考えられます。ですから、複数の抗がん剤を組み合わせて化学療法を強化し、放射線線量は極力減量するという試みが行なわれています。
そこで我々は、全脳全脊髄照射を18Gyに減量する治療法を考案しました。そのかわり、化学療法は強化しました。
転移のない髄芽腫の患者さんで8割以上、転移のある髄芽腫の患者さんでも8割、テント上PNETの患者さんで5割のかたが、がんの進行を抑えられると予想しており、放射線線量を減量できる上に治癒率も向上すると思われます。
対象となる方
3歳以上の髄芽腫(テント上PNET)の患者さんです。
治療の内容
<転移のない髄芽腫>
ビンクリスチン、エトポシド、シスプラチン、シクロフォスファミドよりなる化学療法を5コース行います。
放射線治療は腫瘍のあった部分に50Gyと全脳全脊髄に転移予防のために18Gy照射します。なお、放射線による後遺症が軽度と考えられる12歳以上の脊髄転移のないお子さんには、全脳全脊髄には24Gyを照射します。
<転移のある髄芽腫>
ビンクリスチン、エトポシド、シスプラチン、シクロフォスファミドよりなる化学療法を4コース行います。その後で、チオテパとメルファランを用いた大量化学療法※)と呼ばれる最も強力な化学療法を行ないます。放射線療法は、転移のない方と同じで局所照射50Gyと全脳全脊髄に18Gy照射します。
<テント上PNET>
転移のある髄芽腫のかたと同じ治療に加えて、エトポシド、シスプラチン、シクロフォスファミドからなる大量化学療法を1回追加します。
いずれの場合でも、全ての治療が終了するのに、およそ6-7ヶ月を要し、すべて入院治療で行います。
※大量化学療法・・・自分の造血幹細胞(すべての血液の元となる細胞)をあらかじめ凍結保存しておき、最大量の抗がん剤を投与した後に造血幹細胞を戻す(これを「自家造血幹細胞救援療法」といいます。)というものです。
臨床試験の目的
現在の治療と比べてがんの進行をどれくらい抑えられるかどうかを調べます。テント上PNETの患者さんにたいしては2回の大量化学療法が安全に行なえるかどうかを調べます。
試験への予定参加人数
全国の約50施設が参加します。試験には約100例のお子さんに参加していただく予定です。
予想される効果と副作用
<予想される効果>
転移のない髄芽腫のかたは、8割を超える患者さんで、放射線による重い障害を残さずにがんの進行を抑えることができると予想されます。
転移のある髄芽腫のかたでも8割、テント上PNETのかたでも5割を超える患者さんでがんの進行を抑えることができ、今までよりも治療効果が上がります。しかも、放射線量の減量により、標準的な治療より後遺症は軽度と予想されます。
参考:日本小児脳腫瘍コンソーシアムの従来の成績
(本臨床試験とほぼ同様の治療ですが、転移のない方の脊髄照射は行いませんでした。また、テント上PNETの方の大量化学療法は1回のみです。)
転移のない髄芽腫16例中 11例が再発なく生存されています。
転移のある髄芽腫14例中 12例が再発なく生存されています。
テント上PNETの4例中、3例が再発なく生存されています。
<予想される副作用>
複数の抗がん剤を用いる治療法は、小児がんの治療で一般的に行われているもので、安全性も確立
されています。ただし、大量化学療法を受けられる場合は、重い副作用を合併する可能性は高まります。