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内視鏡手術

大阪市立総合医療センター小児脳神経外科 坂本 博昭

大阪市立総合医療センター小児脳神経外科の坂本です。私がまず内視鏡の話をし、師田先生が手術の話をする予定です。

神経内視鏡

神経内視鏡胃腸などお腹の病気に使う内視鏡などいろいろな内視鏡がありますが、脳や神経の治療に用いる内視鏡を「神経内視鏡」と言っています。このようにまっすぐな硬い金属でできた硬性鏡と、先がファイバースコープとなって自由に曲げられる軟性鏡と、2種類あります。それを脳の中にそっと入れて手術操作をするわけです。小さな皮膚切開で骨に小さな穴を開けて脳の奥深い部分、特に脳室の壁や内部の手術操作ができるので、頭の骨を大きく開けて行う従来の手術よりも神経内視鏡手術は低侵襲な治療と言われています。膀胱などに使う内視鏡を脳に用いた例は60、70年前からあったのですが、近代的なものはこの10〜15年の間に非常に発展してきました。

脳室の形、髄液の流れ

脳室の形内視鏡の治療を説明する前に、まず脳室の構造や髄液の流れを復習します。脳の内部には側脳室という複雑な形をした空間があり、その中では特殊な動脈の血管から血液を原料にしてさらさらの蒸留水のような無色透明の髄液が作られ、この髄液で脳室全体が満たされています。側脳室で作られた髄液は上流から下流に流れるように第3脳室、第4脳室へと移動し、後頭部の小脳と脳幹の間から脳の表面に出て、脳の表面をゆっくり流れて頭頂部まで行き、そこで脳の表面から大きな静脈に吸収されます。もしこの髄液の吸収がうまくいかなかったり、髄液の流れが脳室や脳の表面のどこかで滞ったりしますと、髄液が脳室に溜まり水頭症という病気になりします。脳は硬い頭の骨で囲まれているため、脳室に髄液が溜まれば脳の圧力が上がり、脳室が大きくなれば脳を内部より圧迫することになります。頭痛や嘔気もしくは嘔吐の症状がでたり、脳全体の働きが低下してボーっとして元気がなくなり、進行すれば意識が障害されて、治療しないと命に関わる状態となります。脳腫瘍の場合、たとえば松果体部のところに腫瘍ができますと、中脳水道の流れが悪くなって第3脳室や側脳室に髄液が溜まります。また、子どもでは第4脳室に腫瘍が発生しすいので、ここで髄液の流が滞れば第3脳室や側脳室に髄液が溜まることになります。このようにCTやMRIなどの画像検査を行えば、脳室の形の変化などからどこに病気があって、どこに髄液の流れに閉塞があるかが分かるわけです。

脳室の大きさ

脳室の大きさこれは実際の画像です。これはCT水平断像です。これは横からみたMRIの矢状断像というもので、目がここで、鼻があって、頭があるということです。これは正面から見た図で、頭がこうあって、目がこの辺にあります。脳室の大きさは正常に近いのですが、水頭症になるとこのように脳室が大きくなってしまいます。脳室の中で内視鏡の操作をすると言いましたが、このように脳室が小さいと周りの脳を傷つけずに内視鏡の操作をすることが難しいので、内視鏡を使う場合は水頭症のような脳室が大きい場合によく使います。特殊な細い内視鏡を使えばこのような小さな脳室にも使えることがありますが、脳室が大きいほうが治療しやすいのです。

内視鏡の使用法

内視鏡の使用法内視鏡の主な使用法としましては、病気の正確な診断をするため病気の部分の標本を採取する(生検といいます)、それから嚢胞という袋状の病気があれば、その袋の壁を内視鏡を用いて破って内容を抜くとか、脳の中に出血した血腫を内視鏡を用いて吸引して取り除くとかいうことができます。小さな病変であれば摘出することができます。水頭症の治療として最もよく用いる髄液のシャント手術を行うかわりに、流れが悪くなっている部分を髄液が通過できるように内視鏡を使って治療します。たとえば第三脳室の底の部分を空けて髄液のバイパスを作るということを行っています。ただ、この方法がうまくいく例は限られており、全例でこの治療が有効とは言えません。また、まれにしか発生しませんがいくつかの重大な合併症もありますので、内視鏡手術の適応は慎重に判定して行います。それから、内視鏡を手術の補助として使う場合は、内視鏡を見ながら実際に見えない部分を操作するとか、手術の顕微鏡で病気の向こう側を観察したり、反対側から見たりということをします。私の施設では、この1番に示すように脳腫瘍の場合によく用いています。