第4回小児がん脳腫瘍全国大会

2011/08/06

この日の各講座のコメントは、ボランティアレポーターの山口さんから寄せられたものです。

【ポスト・トラウマティック・グロースを考える!】

「知っていますか?ポスト・トラウマティック・グロース」

 長崎ウエスレヤン大学の開浩一さんが、PTG(Posttraumatic Growth)について解説してくださいました。PTGとは、人生におけるトラウマ的な経験での苦悩を通し、Positiveな方向に心理的変容を遂げることを意味しており、プラスの変容として、PTGの5因子:@他者との関係、A新たな可能性、B人間としての強さ、精神性的な変容、D生命及び人生に対する感謝が挙げられています。開さんご自身も、自動車事故に遭われ、明日何が起こるか分からない世界に住んでいることを痛感し、後悔しない生き方を選択するようになったそうです。

 病気や事故が単なるマイナスイベントではなく、より高い精神的状態へと成長するきっかけに成りうるという考え方は、素晴らしいことだと思います。私は幼い頃に発症した病気が原因で移植手術を受けました。たしかに、辛いことや苦しいことは多々ありましたが、病気になったことがきっかけでエスビューローに参加するようになり、またキャリアにおいても新しい分野に挑戦することができました。これらもPTGとして捉えることができるのではないでしょうか。

 また開さんから、PTGに関するご自身の研究を踏まえ、サバイバーとそのサポーターに対し、アドバイスをいただきました。

【サバイバーへのアドバイス】

  • 出来事の意味を考える
  • 先輩の生き方、考え方を聞く
  • 人の支えに感謝する
  • 世話になった分、恩返しをする
  • 新しい関心事にチャレンジする
  • PTGでなくとも良い

【サポーターへのアドバイス】

  • サバイバーの苦しみに付き合う(Expert Companion)
  • Listen, Listen and Listen
  • PTGを臨床のゴールにしない
  • トラウマを良かったことにしない
  • 軽々しく「良かったね」と言わない。ハッピーエンド、美談にしてしまわない。

 これらのアドバイスで、私の心に残ったのはサバイバーの苦しみに付き合う、ただひたすらサバイバーの話を聞く、軽々しく「良かったね」と言わない、ということでした。もちろん善意から出た言葉であることは分かっているのですが、分かったような顔で私の闘病経験についてコメントをされたり、「かわいそうに」のように哀れまれたりするとイラッとします。あれこれ言われるよりも、ただ黙って私の気持ちを聞いてくれるのが一番ありがたいです。

「パラリンピック・アスリートの挑戦」

 佐藤真海さんは、2008年北京パラリンピックに出場され、6位に輝いています。早稲田大学の応援部でチアリーダーとして活躍していたときに骨肉腫を発症し、それが原因で2002年に右足膝下を切断し、義足生活を余儀なくされました。その後しばらくは、義足であることで強い孤独感を感じ、「障害を持ってまで生きていく価値があるのか」と苦悩の日々を過ごされていたそうですが、その苦悩を乗り越え、2003年からスポーツを再開し、わずか1年後にはアテネパラリンピックに出場し、走り幅跳びで9位の成績を残されています。

 チアリーディングされていて、足を切断しなければならない状況に陥ったときの苦悩は、非常に大きなものだったと思いますが、終始、笑顔を絶やさず、ご自身の経験をスライドやビデオを使って話してくださいました(私の勝手なイメージですが、佐藤さんを見ていると、井上雄彦の漫画「リアル」の登場人物の戸川清春が頭に浮かびます)。

 佐藤さんのお話の中で紹介されていた「失ったものを数えるより、残ったものを最大限に活かす」と言う言葉は、とても素敵なものだと思いました。過去をいくら振り返っても決して戻りませんし、ますます惨めになってしまうだけです。自分に残されたものに感謝し、それを活かすようにアクションを起こしていくことが成長につながっていきます。今回の大会で発表されていたサバイバーの方々は皆、それを実践されておられました。

「発表とパネルディスカッション」

 3人のサバイバー、島田隼人くん、竹田雄亮さん、芝田幸子さんが、ご自身の病気、それをどう乗り越えたかなどについてお話してくださいました。

 島田くんは、出生時に小児がんを罹患しました。小児がんは治癒したものの下半身に障害が残ったため、それ以後車椅子生活を送っています。現在は大阪市立大学に在学し、将来は新しい医療技術の開発に携わりたいと考えているそうです。また勉強以外にも車椅子ハンドボールなどのスポーツを楽しみ、いくつかの団体活動に参加するなど学生生活を満喫しているようです。

 彼は物心ついたときには車椅子生活で、急激な環境の変化によるショックはなかったようですが、日常生活で他人にジロジロ見られるなど疎外感を感じさせられることがあり、辛い思いをしたそうです。そんなとき自分の気持ちを両親にひたすら聞いてもらうことで精神的にとても楽になったと話してくれました。

 余談ですが、私はエスビューローを通して、彼の家庭教師をしたことがきっかけで、島田くんと知り合いました。家庭教師として信頼されていなかったのか、当時は話しかけてもほとんどリアクションが無く、大人しい印象しか無かったので、今の活躍ぶりを見て驚いています(笑)

 竹田雄亮さんは、6歳のときに白血病を発症し、治療のため1年10ヶ月間入院されました。その後も糖尿病や白内障の合併症を抱え12回の入退院を繰り返しています。その苦しみや辛さは私には想像もつかないようなものであったと思いますが、発表されていた竹田さんに厭世的なところや人生に対する諦念は微塵もなく、病気に対するご自身の姿勢について語ってくださいました。

 他人と体力で勝負するのが難しいならそれ以外のところで勝負すれば良いと、勉強や芸術活動に励み、さらにそれらの活動において病気のために困難が生じたときは、自分に合ったやり方を考えるなど創意工夫で乗り越えていっていると仰っていました。図工や美術が好きで、生け花、粘土細工、デッサンなどその表現方法は多岐に渡っており、作品の一部をクライスで拝見しましたが、どれも素晴らしい出来で才能を発揮されています。

 竹田さんの話を拝聴していると、病気なんて個性の1つぐらいで大したことではないような気がしてきます。これからどんな困難が彼に降りかかろうとも、冷静に状況を分析し、解決方法を導き出し、着実に成長していかれると思いました。

 芝田幸子さんは、盲導犬のケインと共に今大会に参加され、闘病生活や病気が原因で周囲から酷い対応されたこと、これまでの活動などについて語ってくださいました。芝田さんは、2歳のとき網膜芽細胞腫を発症し、6歳で両目の光を完全に失われました。その後、脳腫瘍も発症され、現在は治療を継続しながら、府立高校と図書館でお仕事をされています。

芝田さんのすごいところは、両目が不自由でも自分に限界を作らず、海外留学を実現してしまうところです。しかも、米国の名門大学であるコロンビア大学の大学院です。お話の締めくくりの「病気になり、辛いこともたくさんありましたが、これまでの人生を楽しんできましたし、これからの人生も楽しみ満喫します」との言葉が強く響き、「私ももっといろんなことができるのではないか。人生を謳歌することができるのではないか」と勇気づけられました。

三人の話や、佐藤さん、開さんのお話を拝聴し、「皆、強いなぁ」と思うと同時に、自分は思っていたより弱い人間だったということを痛感させられました。発表されたサバイバーの方々は病気になっても卑屈になったり全てを諦めてしまったりせず、自分の可能性を信じ、できることをやっていき、人生を大いに楽しんでおられます。どんな苦境に陥ろうとも、それに浸って全てを放棄してしまわず、本人の意思があればどんなことでもできるということを証明されています。困難を乗り越えられるか、困難に押しつぶされてしまうかを決定する上で重要なポイントの1つは、乗り越えられると信じて、どんな小さな一歩であっても次の行動を起こせるかどうかということだと思いました。

 先述の通り、私も大病を患いましたが、皆に支えられ再び人生を歩むことができました。それでも、完全な健康体というわけにはいかず、当然定期的に受診し検査を受けなければなりませんし、体調にも波があります。日々の生活の中でどうしても他人との差を感じてしまい、未だに「病気でなかったら、もっと能力を発揮して、キャリアで成功できたのではないか?」「健康な人達と同じ条件で勝負したい」と思うことがよくあります。サバイバーの皆さんが仰っていたことは自分でも理解できているものと思っていましたが、まだ実践には至っていなかったようです。病気は単なるマイナスイベントではなく、大きく成長する糧に成りうるというPTG理論も参考にし、いろいろな活動や人々との出会いをきっかけに、病気に対するマインドセットを再構築し、焦らず時間をかけて自然な形で成長できていければと思います。

【ランチョン・セミナー】

 正木英一先生(国立成育医療センター放射線診療部長)が、放射線被曝や放射線治療について、解説してくださいました。多岐に渡るトピックで、専門的な内容も含まれており難しいところもありましたが、とても勉強になりました。東北の原発事故があり、放射線に対して過敏になってしまいがちですが、正しい知識を身につけ、必要以上に恐れないようにすべきです。講演の中で、日本における小児放射線撮影は、欧米に比して放射線被曝が少なく、また小児科医の臨床診断能力が高く、放射線検査の以来が適切になされていると仰っていました。放射線については、先生が紹介してくださいました「緊急被ばく医療研修」のサイト(http://www.remnet.jp/index.html)が参考になります。

【みんなで考えよう!これからの小児がん医療】

 原純一先生(大阪市立総合医療センター)や多くの専門家の方々が、小児がん医療における問題点等について解説してくださいました。化学療法や放射線療法への反応性が異なる、晩期合併症などへの対応が必要など、成人がん医療と小児がん医療には違いがあり、成人がんの治療方針を、そのまま小児がん医療に適応することはできません。また、患者やその家族に対する支援、情報の一元化、成人がんに比べ小児がんの発症者数が少なく、小児がん医療の習得や臨床試験の実施が困難である、小児がん登録が進まない、一定の患者数が無いと人員やインフラが配備されないなど、解決しなければならない課題がたくさんあります。提言の1つとして、専門施設への人材・医療技術の集中による診療の質の向上と医療技術等の格差是正を図り全国どこでも標準的ながん専門医療を受けられる均霑化を実現すべく、小児がん拠点病院の整備を挙げておられました。

 また小児がん患者支援団体の立場から小児がん医療体制の問題点の指摘がありました。がんの子どもを守る会、エスビューロー共に共通していたのは、小児がん医療に付随する費用、修学、将来に対する問題でした。小児がん患者は晩期合併症にも関わらず障害認定がされないため、健常者にも障害者にも当てはまらないといった状況下にあり、費用負担を強いられています。「こんなことなら、助からなければ良かった」と言う親の悲痛の声も紹介されました。経済的問題や教育の問題だけでなく、小児がんを患った子どもさんたちが将来自立して社会生活を営めるのかといった不安もあります。

 この講演を拝聴して、小児がんと成人がんでは異なる点や小児がん特有の問題が多くあることを知りました。医療従事者の方々の鋭意努力で小児がん医療技術は大きく進歩してきましたが、その周辺の社会システムの整備が追いついていません。今後は社会システムの充実についても検討しなければならない段階に来ていることを認識させられました。

「みんなで考えよう!これからの小児がん医療」(厚生労働省 第3次対がん総合戦略研究タウンミーティング)のコーナーでは各団体からの要望ということで「がんの子どもを守る会」と「エスビューロー」からの発表を行いました。

エスビューローでは「緊急アンケート」を実施して47人の方から回答を いただき、要望の内容に反映させました。 ご回答いただきました皆さま、本当にありがとうございました。

その発表内容につきましてこちら(pdf形式)に掲載させていただきましたので 来場されなかった方もご覧ください。


NPO法人 エスビューロー  http://www.es-bureau.org/
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