第9回全国大会
大会で伝えたいメッセージ

本大会で、小児がん関係者および一般の方々へお伝えしたいメッセージは以下の通りです。

(1)背景:小児がん経験者が孤立しがちであること

小児がんは医療の進歩によりその7〜8割が治る病気になりましたが、病気や治療の影響により5人に3人が何らかの晩期合併症(内分泌機能不全や高次脳機能障害など)を抱えており、学校生活に戻ったあとも級友との関係において困難な状況に陥ることが散見されています。

具体的には、小児がんや白血病という言葉に級友や級友の親が固定観念を持っていたり、正しい知識に基づかず、「うつる」というような偏見を耳にすることもあります。体育や運動会に参加できなかったり、遠足や修学旅行、当番や係などの役割を果たせないことも多く、こうしたことをきっかけに級友との関係が疎遠になり、孤立する子どもも少なくありません。

(2)問題提起:級友の気持ちが付いていかないまま、障害者差別解消法に基づく合理的配慮が実行されれば、中傷やいじめにつながることも

この4月より、「障害者差別解消法」が施行され、法律に基づいた合理的配慮を行う義務が学校に課せられることから、これまで「特別扱いできない」という理屈によって却下されていた保護者からの要求も、聞き入れてもらえる可能性が高まるとして、期待する声が聞かれるところです。

しかしながら一方で、「合理的配慮はずるいのではないか」という声も聞こえてきます。

合理的配慮という言葉は、reasonable accommodationを訳したものですが(文部科学省HP参照)、accommodationは便宜というような意味です。

障害者の権利に関する条約「第二十四条 教育」においては、教育についての障害者の権利を認め、この権利を差別なしに、かつ、機会の均等を基礎として実現するため、障害者を包容する教育制度(inclusive education system)等を確保することとし、その権利の実現に当たり確保するものの一つとして、「個人に必要とされる合理的配慮が提供されること。」を位置付けている。
(2)同条約「第二条 定義」においては、「合理的配慮」とは、「障害者が他の者と平等にすべての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないものをいう。」と定義されている。(文部科学省HPより)

合理的配慮の具体例や合理的配慮データベースなどの情報が整い、どんな障害に対してどうした便宜を提供することが合理的配慮か判断され提供されることになりますが、そうした対応に終始しますと、「級友の気持ちがついて行ってないケース」が出てくるのではないかと考えられるのです。

そこで私どもでは「こころの合理的配慮」を今大会のキーワードとしました。「配慮」とはもともと「こころ配り」することですから、それにわざわざ「こころの」と付けるのは重複した表現になり不適切なのですが、まさに逆説的に「こころの合理的配慮」があわせて必要とされる状況にあると思われます。

小児がんのように病弱であったり、障害のある子の教育のあり方として近年、インクルーシブ教育(誰しも排除されることのない教育)が提唱されていますが、うわべだけではない実のあるインクルーシブを実現するためには、「こころの合理的配慮」がセットになって提供されることが極めて重要であると当団体では考えています。

(3)解決のヒント:アドラー心理学でいう「共同体感覚」を学級内で育むこと

昨今の哲学ブームを背景に、哲学者でアドラー心理学研究の第一人者である岸見一郎氏の「嫌われる勇気」が135万部を超えるベストセラーとなっています。アドラー心理学とは対人関係の心理学と言い換えられることもあり、その目標は「共同体感覚を育む」ことであると説明されています。

共同体感覚とは、ありのままの自分を受け入れること(自己受容)にはじまり、ここにいてもいいんだと思える居場所があり(所属感)、他者を仲間として信頼でき(他者信頼)、自分が役立っていると感じられる(貢献感)感覚のことで、学級という単位にあてはめて簡単に言うなら、「クラスのみんなを信頼できる仲間として感じることができる」ということです。

小児がん経験者の子を、クラスのみんなが「彼(彼女)も、ぼくたち(私たち)の仲間だ」と感じるなら、「彼(彼女)が困っているなら、助けてあげたい」という気持ちを持つでしょう。また逆に小児がん経験者の子が、クラスのみんなを「ぼく(私)の仲間だ」と感じることができるなら、経験者は「ぼく(私)はいない方がいい」、「ぼく(私)は、じゃまな存在だ」とは考えないでしょう。

このように、インクルーシブ教育を実現することと、共同体感覚を育もうとするアドラー心理学とは、親和性が高い、ということだと思われます。

(4)解決の具体策:合理的配慮の実行に合わせて「クラス会議」を実践し「こころの合理的配慮」を培うこと

では、学級運営に具体的にアドラー心理学を適用した例はあるのでしょうか?

ここに、四日市市の教育委員会が実施した「クラス会議」の導入研究があります。「クラス会議」とはアドラー心理学を応用した、子どもたち自身による民主的な問題解決手法のことです。小学4年生31名の学級で、毎週1回、計8回のクラス会議を実施した結果がまとめられています。(参照「共同体感覚を育む「クラス会議」の活用に関する研究」

1)自己受容(3.23から3.36に↑)
あなたは苦手な部分も含めて自分のことが好きですか
なたは自分のことを大切にしていますか
2)所属感(3.32から3.50に↑)
あなたのクラスは居心地がいいですか
あなたはメンバーの一人であるという気持ちはありますか
あなたはクラスのみんながいてくれてうれしいなと思いますか
3)信頼感(3.06から3.24に↑)
あなたはクラスで大切にされていると思いますか
あなたはクラスのメンバーを信頼していますか
あなたのクラスは自分達で自分達の問題を解決しようとすることができますか
4)貢献感(3.06から3.41に↑)
あなたは人のためにはたらくことが好きですか
あなたはクラスのみんなのために役に立つことができると思いますか
あなたはクラスのみんなを大切にしていると思いますか
実施前に比べて4つの共同体感覚尺度(自己受容、所属感、信頼感、貢献感)すべてが向上しています。注目に値するのは、発話回数の少ない子どもの指標の改善が顕著なことです。これはもともとあまり学級での仲間意識の希薄な子どもたちが、クラス会議を経験することで仲間意識が大きく高まったことを意味しています。

これらのことから、障害の内容や程度によりますが、障害のある子どもの実のあるインクルーシブ教育を実現するうえで、アドラー心理学、およびその手法としてのクラス会議は有効に働く可能性が高いのではないかと考えています。

本大会では、各方面(小児がん医療、特別支援教育、アドラー心理学、教員)の学識経験者を招き、こうした観点に理論面、実践面から迫ってみたいと考えております。


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