復学支援パネルディスカッション

本講義録は“復学支援セミナーin東京 ”(平成19年11月23、24日開催)にて行われた「パネルディスカッション 〜現場と専門家、みんなで考える復学支援」を一部抜粋し、再現したものです。

◆参加者◆
  • 日本大学板橋病院小児外科教授 草深竹志先生
  • 大阪市立大学小児科 山口悦子先生
  • 小児がん病弱児保護者 根岸京子さん
  • 阪大病院院内学級 九後充子先生
  • 参加者A、参加者B、参加者C、参加者D
  • NPO法人エスビューロー 安道照子(代表)、長澤正敏(事務局長)
【長澤】

復学 昨日、本日の講義を受けまして、むしろ今の現状はこうだとか、なかなか現場はこうなのだとか、こういう風な理由でうまくいかないのだとか、是非、お聞かせいただきたいと思います。

【参加者A】

横浜国立大学のAと申します。私は病気の子どもの教育が専門なのですが、教員免許状の法律が変わりまして、今までは盲学校、聾学校、養護学校の3本立てでやってきたものが、特別支援学校教諭となりました。そして、免許取得過程で、病気の子どもの教育、心理、生理、病理、といったものも扱うようになりました。しかし、現状、全国の調査をしてみますと、ほとんどの教員の方が知的障害に関する勉強はしているけれども、病気のこどもについては何も知らないまま教員になっています。これは病弱養護学級の教員でもそうなのです。入院、又は在宅療養したら、学校来るまで勉強は治ってから、、、というような方がまだまだ多いですね。

【参加者B】

私、神奈川県のこども医療センターの中にある養護学校のBと申します。一応、現状を含めてということで、お話いたします。私達のところでは、子ども医療センターの看護師さんたちと復学支援の研究会を立ち上げて、地元の学校につなげていくという試みをやっています。ただ、特別支援学校というのには特別支援コーディネーターがいて、私たちの学校でも全く授業を持たずに専門にそのようなことやってもらえるのですが、一方、地元の小学校、中学校では養護教諭の人や特別学級クラスの先生がその役割を担わされていて、真の意味でのシステムが地域の方までできているかというと、人的に苦しいものがあるなぁという感じがします。

【山口先生】

復学 我々、医療者の側からすると、学校の先生にどこまでどうやってお願いしていいのかというのが分からない、というのが悩みです。例えば、担任の先生が「うん」と言ってもダメだったりとか、逆に校長先生はいいと言っているのに、担任がダメといったりとか、いろいろとそのような部分があったりして、どういう筋道で動いているのだろうというのが未だに謎なんですね。どなたかに教えていただきたいなと思っているのですが。

【九後先生】

基本的にどのような組織でもそうだと思うのですが、長が知っていると動きやすいですね。先ほどのカンファレンスの場も、担任の先生はもちろんですが、必ず管理職の方と養護の先生に是非来てくださいとお願いをしています。管理職の先生に聞いていただくと、他の職員にも伝えやすくなりますし、その学校の中の職員の共通の理解という面でも、非常にいい伝わり方だと思いますので、私達もそのようにお願いをしています。とにかく、担任の先生が一人で抱えこまないように周りの教師が複数で対応、サポートできるような体制が、大事だと思います。

【参加者C】

うちは今、息子が5年生で、三年前に脳腫瘍を発症しまして、一年二ヶ月入院をして、退院して、いまは元気に学校に通っています。今までのお話は、院内学級がある場合のお話だったのですが、うちが入院していたところは院内学級がなかったので、まるまる一年2ヶ月全く勉強をしていない状態で復学をしました。その際に、最初に教頭先生の方に言ったのですが、教頭先生は「元気に通ってくれれば、勉強なんていいじゃないか」といった感じで。学校と話し合っていくときに学校の方も脳腫瘍の生徒さんは初めてですということで、「とにかく分からないから、なんでも言ってください」というのですけれども、私もどういうことを伝えたらいいのか分かりませんでしたし、主治医の先生などに話しても、「なにか相談があれば言ってください」というだけで、結局、私自身がいろいろ考えて言わないことにはなにも動かないと感じました。なにかすごくバラバラしているなぁというのがあったので、これからどうやって連携をとっていけばいいのかなぁと思いました。

【根岸さん】

私はちょうど院内学級のある病院でしたし、今、言われたような連携がすごくとれていたなと思います。でも、院内学級に入らない方は少なくとも一週間に一回は地元校の先生が病院に来られていました。復学自分のところの学校の子どもですからね。でも、病気を一生懸命治そうとしている子どものところへ勉強とか、学校のプリントとか、持って行っていいものだろうかとか、地元校の方がすごく迷われているというのを聞きました。そのあたりが難しいところかなぁと思います。

【長澤】

非常に大事なことを議論していただいていると思います。やはり、いろいろな情報なり、知識なりが断片的にあって、で、それぞれの人がそれぞれの立場でがんばっている。で、こういうふうにしたらうまくいったという、それは伝わってくるのだけれども、普遍的なものにはなっていないという状態だと思います。例えば、復学ガイドブックとか、復学ハンドブック、復学成功事例集であるとか、なにかそういったものがあってもいいのかもしれません。やはり一つのガイドラインが出ていけばそれに準拠した行動というか在り方というのが一本化されていくだろうと思いました。なにか教育の方でそういった内容を検討する委員会とかいうものはないのでしょうか?

【参加者D】

病弱養護学校の教員のDです。それに類するものか分かりませんが、全国の病弱特別支援学校の校長会の中に特別委員会のような形で、地元校の先生に渡す病気の子どもの支援をする冊子作りのようなことを開始しました。冊子ではなくてネットで公開するという形でいまは進んでいます。“地元校の先生がこういう状況で困っていて、子ども達が困っていて、だからその子ども達を指導してください”という理念的なところは編集員が行うのですが、病種ごとのエビデンスや状況が変わっているという医学的なことについては、その学校にいらっしゃる主治医の先生、学校で地域の連携されている病院と一緒に作成していこうと考えています。

【草深先生】

復学 今まで日本の中でこういった社会的なムーブメントというのはどうしても行政的背景が希薄なままで、現場のボランティア的な方達がやってきて、それがために苦労は多いけれども、なかなか進まなかったようないろいろな面があったと思うんです。背景にしっかりしたものがあれば、医者側とのコミュニケーションも、すごくやりやすいと思うのですけれども、そのあたりの実際というのはどういったところなんでしょうか?

【参加者B】

すみません、そういった教育の全体的な指針を考えるのは文部科学省なんですけれども、その人たちにある程度データを渡したりしています。また、教育行政の理念とか思想とかを研究している国立特別支援教育総合研究所というものがあって、そこも一種のシンクタンクの役割をしています。病弱児に関しても、本当に病弱児のニーズというのを本当に教育側が掴んでいるかということ自体、分かっていない部分があって、そのあたりについて少しやろうではないかというのが結構あります。そもそも、復学に際して気を付けることも含め、そもそも勉強することは当たり前ですというか、いろいろな体験をするのは当たり前ですという思想、考え方もアピールしなくてはいけないなということから、病弱特別支援学校が発信していく流れというのが全国的にあります。

【参加者D】

校長会では、学校側が主体となることで積極的に活用していこうという意識が高まり、押し付けではなくて学校独自の主体性を持ったものができるのではないかという背景のもと、学校として、校長会の委員会としてやっているという感じです。また、復学に関してですが、地元校の先生方への支援ですとか特別支援教育というのは地元の学校の先生を支援していくということも一つの理念となりますので、病気の子ども達を持っている小中学校の先生を支援していくということも継続してやっていく必要がありますので、委員会と連携なんかをとっていくと、またおもしろい動きになっていくのかなぁと思います。

【参加者B】

少し補足なんですけれども、今の段階では国立特別支援教育総合研究所の事業であったり、校長会のやっている研究教育であったり、というレベルでしかないといえばないです。では、実際に子ども達が特別支援という枠組みのなかでどのように支援されなければならないかということで、特別支援の枠組みを考えるとそれは国レベルの政策になってくるので、その後の答えは私達には分からないというのがあります。先ほどのお話にもでましたが、養護学校にはものすごくたくさん先生がいて、例えば子どもが200人いれば、先生が150人くらいいるような学校なんです。そういう意味ではものすごくお金のかかるシステムなので、これから先、今まで知らなかった病気の子ども達のお世話や、院内学級、訪問教育等もするとすれば、すごくお金がかかっていくので、養護学校というパターンでこれをやっていくのか、そうではないやり方があるのか、そのへんは少し考えていかなくてはならないのではないかなぁと思います。一方、社会的には不登校対策にお金をかけていくという流れはあると思います。その流れにのって、病気の子ども達もある意味では不登校と捉えることができるので、そういった支援の流れと交流していけないのかなぁと考えています。

【安道】

すごく話が白熱してきたのですが、時間が迫ってきていまして、今日は意見をいただけて、ほんとうにうれしく思っています。このような場で医療者がいて、それから教育者がいて、そこにまた患者家族がいて、こういう話ができることはとても意義のあることだと思いますので、私達もこれからがんばって、こういう機会を設けていきたいと思います。今日は本当に一日ありがとうございました。

問い合わせ先