学校生活支援の基本と総合的な支援システムの構築

※本サイトは独立行政法人福祉医療機構「長寿・子育て・障害者基金」助成事業により作成しました。
西南女学院大学 保健福祉学部教授 谷川弘治先生

はじめに

これは小児がんの学校生活を支えるパンフレットです。復学のシステム

これらの色々なパンフレットを作ったというのは、今の日本の状況から言えば、必要な情報提供をどんどん出して行くことが必要になると思うのですが、そのときにどういう質の情報を提供するかというのが大事になってきます。子供と家族、一人ひとりの感じ方、考え方を受け止め、尊重できる。親御さんと子供さんでも違うことがあります。そのあたりを受け止め、上手くしないと後から色々問題になることもあります。私たちは、もちろん子供さんの状況に応じて今出来る精一杯のことを考えましょうという立場でパンフレットを作ったつもりなんですけど、もとの学校(原籍校)が大事だということが前面に出てしまい、お母さんにとっては非常に不愉快な思いとなってしまうこともあります。パンフレットをつくる際には(二年間かかりました)、そういったことを言葉の上でもそういう気持ちになってもらわないような言葉遣いにしようとしました。全く感情的な反応が出ないような言葉を使うのはほぼ不可能だとは思うのですが、そういったことに常に配慮するという気持ちはもっておいて欲しいと思います。これが一つです。

それから、基本を抑えること、枝葉末節、目先にとらわれないということです、それからその人なりの選択を妨げないようにしたいということです。交流は大事というのは基本だと思っています。入院している子供さんが学校の子供達と交流するのは大事です。だけど、いつも同じように交流していると逆のときがあります。脱毛があって今はちょっとその姿を見せたくないときに、やはり交流は大事だと無理やり会ってしまうと困るわけで、そうやって色々な選択肢がいつもあるよということを、常に頭に入れておく必要があります。

それから読んだ人が「出来ること」を見つけられる、あっこれなら内のクラスでも出来そうだということを見つけてもらえるようないくつかの選択肢を用意しておくということです。それから、このパンフレットは「どうぞ作り変えてもらって結構です」と書いています。自分なりのパンフレット、私の子供なりのパンフレットが出来ればといいと思います。こういうことが情報提供の質の中で大切ですし、個々の子供さんを大切にする、個々のニーズに応じた支援をするということの基本だと思っています。

もとの学校に期待される役割

復学のシステムもとの学校に期待される役割というのは、通常の学校の生活において考えれば、友達と教師と共に過ごす日常の場であるということです。それから学習し、色々な経験を積む成長・発達の場でもあること。これも当然ですね。それから治療、セルフケアを続ける場であること。喘息やアトピーを考えればいろいろな治療やセルフケアを続けている子供は多いと思いますね。ですから学校の先生方に病気の子供の基本を知ってもらわないといけないということがここからもいえると思います。それから自立のための準備をする場でもあることを付け加えておくべきかなと思っています。

それから入院中・自宅療養中についていえば、学習の相談に乗ってくれる、転校していてもですね、そういう場であって欲しいと思います。それからクラスメイトとの交流の機会を提供してくれる場でもあって欲しい。それから治療目標となる、良くなって帰るという場所であって欲しい、もう帰りたくないという場ではあってほしくないと思います。それから迎えてくれる人たちがいるというメッセージを伝えてくれる場所であって欲しい。これは治療目標とつながってくると思います。それからまた、院内学級の先生はよく体験されていると思いますが、子供がもとの学校の話を色々することがあると思います。これは完全であった自分、病気でなかったときの自分を思い出しているという部分もあると思います。私は今はこういうところにいるけど、これ(もとの学校での姿)が本当の僕なんだ、知っておいて欲しいという意味で話してくれることもあると思います。そういうことも大事にして欲しいです。地元の学校の先生にもこういうかかわりをして頂ければと思います。

院内学級に期待される役割

それから、院内学級に期待される役割としては、当然のことですが、個別支援の担い手であり、入院環境をノーマライズする、つまり子供らしい環境にするといってもいいと思います。先ほどからお話しているようなことです。それから発達を促進すること。入院中の不安やストレスの対処を支援し闘病への意欲を維持すること。復学のシステム

それからセルフケアの能力を形成しておくということも大切です。自分の体について自分で対応できるようになっておくことです。それから地元校への復帰を支援するということ、社会的自立を支援するということ、家族保護者、兄弟姉妹を支援するということも挙げられると思います。もう一つは地域支援のセンターとしての役割も担って欲しいと思います。色々な情報提供をする、相談活動をする場であって欲しいと思います。

子供が求めていることから出発する

大事なことは、子供が求めていることから出発するということです。まず、子供達一人一人が求めていることは、だいぶ違うということがあります。何のために、今は入院しているか勉強しているかということが一人ひとりで違ったりします。最初には本人にも分からないということがあることを大事にして欲しいと思います。やはり院内学級がどんなところか分からないから転校を渋るということもよくあります。またもとの学校にどのように戻るかも本人にとっては初めての体験で、分からないこともあります。他にも本人がどうして欲しい?と聞かれても分からないことはありうるんですね。そういう時に一つ一つどう説明して行くかということも大切だと思います。それから本人の思いを大事にしたいけれども、揺らぐときもあるということに配慮して欲しいと思います。友達と仲良くしたい、出会いたいと思っている、でも調子が悪いとか髪の毛が抜けているという場合にはそういう気持ちがひっこんでしまう、そういうことを考えてもらえれば分かると思います。それから医師、看護師、教師、親と4者がみているところはそれぞれ違うということです。なので、この子にはこういうことが必要というのを、それぞれ持ち寄らないとその子のための全体像が見えてこないことがあります。それから先ほども申しましたが、一緒に考えて何が最善なのかを探って行きましょうという思いをもっていることが大切だと思います。

統合的なシステムの構築

復学のシステム高校生や大学生くらいの人たちにとって支援上必要なものを本人に聞いたら、このスライドに挙げたものどれもすごく大事だと言っていました。これは医師と教師に聞いています。小児がん経験者についていいますと、一つは高等学校です。病弱養護高等学校がいる。高校段階で入院している場合がありますからね。次にくるのがピアカウンセラーです。同じ経験をした人に相談にのってもらう、その次に社会生活の相談の場、拡充。こういうところはまだまだ不十分なところが多いと思います。ですけど、さっきお話させて頂きましたようにこれまで皆様の先輩達が努力して築いた院内学級があるわけですから、財政難などで難しい面も多いですけど、皆さんが声をあげて行くことで改善して行けることがたくさんあるのではないかと思います。

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