毎日新聞大阪版 2002年(平成14年)4月20日(土曜日)
ボランティア大阪版<手を携えて>

患者と医師の思い結ぶ
自らのつらい経験を基に 子どもを亡くした母親らで発足
NPO「エスビューロー」 長期入院患者らを支援

 小児がんなどの難病との闘いは、子どもたちはもちろん、保護者にとっても険しい道のりだ。NPO「エスビューロー」(事務局・兵庫県芦屋市)は、大阪大医学部付属病院小児科で闘病の末に亡くなった子どもの母親らが中心となって発足。自らのつらい経験を基に、長期入院中の子どもや保護者をサポートしている。医療関係者もメンバーに加わり、患者と医師側双方の思いを結ぶ新たな試みとして注目される。

 エスビューローは00年5月に発足。代表の安道照子さんは同年1月、長男(当時5歳5カ月)を、副代表の安井美喜さんは99年9月、長男(同1歳9カ月)を亡くした。2人は、当時の気持ちを「自分の命より大切な最愛の息子を亡くしたのだから、もう私たちは生きる意味すらない」と思ったという。

 子どもの闘病生活を泊まり込みで見守る母親たちは、肉体的な疲労もあり、精神的に不安定な状態が続く。安道さんは「医師から子どもの病気を聞いたときは、頭が真っ白になった」と振り返る。子どもが注射や点滴に脅えたり、大量の薬で髪が抜けたり食欲をなくしたりする痛々しさに胸を痛め、「今の治療方法で本当にいいのだろうか」と迷う場合も多い。

 しかし、回診時間は通常、2、3分しかない。「忙しい先生に、どこまで聞いていいのか分からない」との気兼ねから、子どもの状態で気になることがあっても、医師に十分に相談できなかったという。

 そんな時に頼りになったのが、母親たちのネットワーク。看病の合間につらい気持ちを打ち明けて励まし合ったり、治療の情報交換をした。子どもを亡くして絶望した時、同じ経験を持つ仲間の存在が心にしみた。

 安道さんが長男を亡くした後、初めて外出した先は、安井さんに強く勧められた小児がんの学会だった。そこで偶然、阪大病院の医師にあった。「息子さんがなぜ亡くなったのか、ぜひ話したい」という医師と初めて4、5時間話し込んだ。安道さんは「先生にも言いたいことがたくさんあったんだ」と知った。全国の病院に「親の会」などがあることも知った。病院側とも話して、親と医療関係者のコミュニケーションを図る機関誌「クライス」(ドイツ語で「輪」の意味)の発行に踏み切った。

 年3回、5号まで発行したクライスには、患者側が手記を掲載。17歳の息子を亡くした母親は「呼びかけに必死ではいと応えるか 最後の言葉胸つぶれしや」と入院中を振り返る短歌と文を寄せた。開頭手術に成功して退院した男児の母親や、脳腫瘍の治療を受けながら医師を目指す20歳代の男性など、患者側のさまざまな思いがつづられている。

 また、医師が専門分野を解説する「医療最前線」や、患者側の疑問に答える「素朴な疑問Q&A」のコーナーも連載している。

 病院でエスビューローの活動を聞いた患者の保護者からの電話相談も受ける。「パニック状態です」と混乱した気持ちを打ち明けてくる親や、病院側への不信感を訴える親たちなどだ。安道さんは「自分が経験したことが多く、よく分かる」と言い、話して解決できる問題は病院側にも伝えている。

 子ども向けには、エスビューロー内のボランティアチーム「エスビューローマム」(約20人)が吹田市の市民病院に週1回、絵本を読んだり、おもちゃを作るなどの活動に出かけている。

 また、入院する子どもや保護者の不安を少しでも取り除くため、ぬり絵形式の絵本「みるくちゃん にゅういんする」を阪大病院小児科の看護師の編集協力で発行している。ウサギのみるくちゃんの入院生活の1日を紹介しながら、安井さんの子どもが血圧を測るのも怖がった経験から、検査などの項目ごとに「ちっともいたくないから、だいじょうぶ」などと解説する内容にした。

 安道さんは「患者側と医師側の風通しをよくすることで信頼関係を築き、患者や家族、医師や看護師も含めたチーム医療ができれば」と話している。



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 欧米では家族のケアに臨床心理士なども置く

 阪神大震災被災児の児童館「浜風の家」(芦屋市)などで子どもを亡くした母親らの心のケアに取り組み、「エスビューロー」の理事でもある小児科医、京極正典さんに聞いた。

 欧米諸国では、病院に入院患者や家族をケアする臨床心理士などを置いています。子ども病院の近くには、一時外泊する患者や遠方に住む家族のためのカウンセラーのいる宿泊施設があり、安い料金で泊まれるようになっています。入院経験を持つ患者の家族や、教会の人などがボランティアで、宿泊所や一時休憩所を提供している場合もあります。

 医師の立場から言うと、医師は病気治療の訓練は受けるが、保護者のケアまでは勉強していない。医師側も治療について理解してもらいたいという気持ちはあるが、患者さん側から指摘されて初めて説明の仕方が悪かったことなどに気づく場合が多いのです。

 心のケアをする場合、自分の経験で共感できるというのは強い。専門家でも及ばないかもしれません。看病するお母さんが笑っているだけで、子どもは安心する。医師らも加わって支援組織ができたことは大きな意味があります。